8月9日~12日-人生最高のサプライズ。【第ニ弾】
僕たちは家に着いた。
最寄駅から家までの暗い道のりをどのように歩いていたのだろう。
たしかあの子は、僕より前を歩いていた。相変わらず道路に近い道を歩いたり、時として道路に出たりするから、危ないなぁと思いながらも、「ちゃんと内側を歩いて」なんて声をかけられるはずもなく無言で歩いていた気がする。
あの子の手を引っ張って道路に引き戻したような気もするが、これは現実か?それとも妄想か?記憶は曖昧である。
僕が財布から鍵を出し、鍵を開けるまでの間、喧嘩してから1番2人の距離が近づいた気がする。
あんなに近寄れたのに、あの時僕らは言葉を交わすことすらなかった。
あの子は家に帰ると、無言で荷物を詰め込んだ。大きなキャリーケースに物を入れていくあの子が、なんとも健気に見えて、辛かった。
でも、もう僕は、あの子の彼氏ではない。僕はあの子が帰ろうとするのを止めようとはしなかった。
でもこの時、本当は、僕はあの子を試していたのかもしれない。
食器を捨てるそぶりを見せたり、あの子から借りているケーブル保護コネクタをあの子へ返そうと投げたり、僕はあの子を突き放した。
そうすることで、見せかけではないあの子の本心を探りたかったのかもしれない。
そして、あの子は泣きじゃくった。
僕の冷たい態度に耐えきれなくなったのだろうか。自分の行いを後悔したのだろうか。とにかくあの子は泣きじゃくった。
また僕は、あの子を泣かせてしまった。
そしてあの子はごめんなさい、ごめんなさいと謝ってきた。
やはり、あの子は反省していた。
この時、僕はあの子の本当の思いを知った。
喧嘩してる最中から後悔していたこと、花火が始まって普通に話しかけようと思ったけど僕が冷たく返事をしたからどうすればいいかわからなくなってしまったこと、無言で見続ける花火が辛くなって、もう帰ろうと切り出したこと。
あの子は、全てを包み隠さず僕に教えてくれた。
僕は途端に申し訳なくなって、あの子を抱きしめた。
僕だって本当は気づいていた。
あの子は喧嘩した少し後から、悲しい声で、僕の顔を伺いながら話しかけてきていた。
でも僕は、あの時はあの子を受け入れられなかった。あの時の僕は、自分は完全に被害者だと思っていた。
いや、あの日の翌日の朝、あの子を抱きしめ涙を流すまで、僕は自分が被害者だと思っていた。
だから、こんなことをしたあの子を受け入れられなかった。
でも、本当は違った。僕が、僕が少しでもあの子が拗ねた時にあの子に歩み寄ることができたら、こんなことになってはいなかった。
事を大きくしたのは、僕だった。
———
家に着いて、どんな話をしたのだろう。
あの子がキャリーバッグに物を詰める手を止め泣き出してから、どんな話をしただろうか。
具体的には思い出せない。だが僕らはまた、仲直りした。
———
翌日の朝。
僕が目を覚ますと、相変わらず無邪気な顔で眠るあの子が隣にいた。あまりの可愛さにまた僕は写真に収めた。
こんなにも幼気なあの子を、昨日の夜、あんなにも泣かせて、あんなにも謝らせてしまった。
あの子が楽しみにしていた花火大会を僕が怒った事で台無しにしてしまった。そして、家に帰ってきて謝るあの子に対して、「お前のせいで台無しだ」と責めてしまった。
そう思うと申し訳なくて、目から涙が止まらなかった。
泣きながらごめんね、ごめんねと謝る僕に、目を覚ましたあの子は、うちが悪いんだよと慰めてくれた。慰めるあの子の声があまりにも優しくて、僕は涙が止まらなくなった。
———
朝、僕がご飯を作ってあげた。作っている間、あの子は爆睡していた。こういう無邪気なところが好きだ。
あの子の作ってくれる朝食に比べると「何か足りない感」が否めないものだったが、僕は結構頑張ったつもりだった。
———
2人で朝食を食べた後、僕らはパルコに向かった。特別展を見ようと話していたのだ。だが、途中で僕らはまた喧嘩になりかけた。
今朝あれだけ後悔したのに、また僕はあの子に怒りかけた。いや、怒ってしまったのかもしれない。
でも、なんとか持ち直し、僕らはデートを楽しんだ。
辛い食べ物のお店に行ってご飯を食べた。あの子の食べていたスンドゥブ?かなにかが地獄のような辛さで、味見した時、舌がおかしくなるんじゃないかと思った。あの子が頼んでくれたチジミも食べ物のレベルを逸脱した辛さで到底食べきれるものではなかった。
あの子はチジミをお腹が一杯だから食べられないと言ったが、本当はさすがに少し辛かったんじゃないか?と、実は少し疑っている。
それからのあの子はびっくりするくらい元気だった。
2人でパルコを回って、途中でMEDAMAYAKIのTシャツを買って、それから大須に行ってゲームセンターに行った。
ゲームセンターでしたことは二つ。
一つはパンチングマシーン。もう一つはプリクラだ。
僕にとっては実に5,6年ぶりのプリクラだ。あの頃よりも顔認識のレベルが上がっており、僕の小さな目でも、しっかりと認識してくれていた。
パンチングマシーンに関してはイマイチの結果だった。ついこの前まで200キロは普通に超えていたが、今回は186キロが最高だった。もっと大きい数字を出して、あの子にすごいって心の底から思われたかった。
その後、gramで限定発売のパンケーキを食べた。この時のあの子の笑顔が、愛しくてたまらない。
パンケーキももちろん美味しかったが、あの子が写真を撮る間にバターが溶けて転がったこと、店員さんが初心者で危なかったしかったこと、ガムシロップの出が悪いと話していたら気がきく他の店員さんが他の容器に移し替えて持ってきてくれたことなど、印象深いことが起きすぎて、そっちの方がよく覚えている。
そして、パンケーキを食べたあと、僕らは若者の街、栄に向かった。