8月9日~12日-人生最高のサプライズ。【第一弾】
8月9日。
大好きな彼女から、お昼ごろにビデオ通話がかかってきた。
彼女とはよくビデオ通話するが、いきなりかかってきたのは初めてだったから驚いた。
通話に出ると、めがねをかけた可愛い彼女のお顔が映っていて、彼女が言ったセリフは一言。
「どこにいるでしょーか!」
そして彼女は、スマホを上にかざした。
そこに映っていたのは、金時計だった。
本当は、8月10日から会う予定だった。
彼女はこっそり、一日早い新幹線のチケットを取っておいてくれて、
こっそり名古屋まで来てくれたのだ。
こんなにうれしい思いをしたのは、はじめてだった。
彼女は朝から、いや、新幹線のチケットを買ったその日から一切このことに触れず、ずっとこっそりと準備してくれていたのだ。
陰ながらサプライズを企画してくれて、いろいろと計画を練ってくれていたことが本当にうれしかった。
前日に、微妙に体調が悪いと彼女に伝えたとき、やけに心配していたのは、次の日にこっそり来るからだったのかと気づき、また彼女が好きになった。
サプライズネタバレを我慢して、ただひたすら、「心配だから早く寝て」と言ってきた彼女の気持ちを思ったら、なんていい子なんだと思って、早く抱きしめたい。そう思った。
とにかく1秒でも会いたくて、急いで名古屋駅に向かった。
ーー
名古屋駅に着いた。
彼女は金時計にいた。かわいいキャリーバッグを引いて、名古屋に来てくれていた。
「今回はキャリーバッグだからおでかけするとき、これだけ持てばいいんだよぉ」とカバンを誇らしげに持つ彼女が、また可愛くて、たまらなく愛しく思った。
サプライズがあまりにもうれしかったので、今回は、デニーズ以外のところで昼ごはんを奢ってあげたいと思った。だから、ゲートタワーのおしゃれなスパゲッティ屋さんで昼ご飯を食べた。
この時の彼女があまりにも可愛くてたくさん写真を撮った。
おいしそうにスパゲッティを食べてくれて、嬉しかった。
ーー
お昼ごはんを食べた後、Seriaに行って食器を買った。
食器を選んでいる時、少しつらかった。
まるで同棲しているようなことをしているのに、数日したらまた大阪に帰ってしまい、また1ヶ月くらい会えなくなる。そう思ったら、食器を選んでいる最中なのに、泣きそうになった。
食器を選んでからは、ニトリに行った。バスタオルと食器の水切りの台を買った。
本当に同棲しはじめたカップルみたいな気持ちだった。
凄く幸せだった。すごく幸せなのに、少し寂しかった。はやく同棲したい。心からそう思った。
ーー
名古屋駅で買い物を済ませたら家近くのスーパーに向かった。
ここで、一緒に夜ご飯と朝ごはんの買い物をした。
今日はチーズインハンバーグを作ってくれると言ってくれた。
途中で、豚ミンチか牛豚ミンチかわからなくなってお母さんに電話かけていたところが、これまた愛しくてたまらなかった。
ーー
彼女が1か月ぶりに僕の家に帰ってきた。
幸せだった。
ここでまた、サプライズを用意してくれていた。
彼女がバイト先でバウムクーヘンを買っておいてくれたのだ。
こんなに尽くしてくれる彼女がいて、本当に自分は幸せものだと感じた。
ちょっとしてから夜ご飯を作り始めた。
凄く上手にハンバーグを作ってくれて、とてもおいしかった。
でも、何よりも可愛かったのはデミグラスソースが理想と違う感じになってしまって、
しょんぼりしながらご飯をよそっている姿だった。
あまりにも可愛かったのですぐに写真を撮った。
ーー
夜は、彼女が持ってきてくれたバウムクーヘンを食べながら、
Huluでアイアムアヒーローを見た。
内容も面白かったし、怖いシーンになると、「えっ、普通に無理。こわい・・・」とか言って画面から視線を逸らす彼女がすごくかわいかった。
本当に幸せな時間だった。
彼女も、「ねぇ、今すごく幸せ」と呟いてくれて、愛くるしくてたまらなかった。
ーー
8月10日。
彼女の朝は遅い。
お腹を出しておへそに手を入れながらスヤスヤと眠っている彼女が可愛くてたくさん写真を撮った。
問題は、この後だった。
僕が、もう少し、彼女が僕にしてくれたサプライズのことを思い出せる余裕があれば、きっと最高の思い出になったはずだったのに、僕の気持ちも空回りしてしまって、彼女を苦しめてしまった。
この日、僕は彼女を花火大会に連れていく予定だった。
彼女が絶対に浴衣を着たい、浴衣着ないと花火大会行きたくないと言うから、
勝手に浴衣レンタルを予約して、浴衣を着て花火大会に行く予定だった。
でも、電車に乗っているとき、ささいなことで、彼女を怒らせてしまった。
これからお互いがずっと楽しみにしていた花火大会が待っているというのに、
険悪なムードになってしまった。
浴衣レンタルの会場に向かう途中も、彼女は怒ったままだった。
きっと普段の僕なら、もっとごめんね、機嫌直してと彼女に歩み寄れたと思う。
でも、この時は僕もすこしイライラしてしまった。
この時、まだ僕は彼女のことを十分に理解できていなかったから、彼女が怒っている理由が理解できなかった。
なぜ怒っているのかわからないという意味ではなく、どうしてこんなことで怒るのかわからないという意味だ。
この時の僕はそう感じていた。
それに、自分が思い描いていた理想とかけ離れてしまっていた現実にも、つらくて耐えられなかった。
駅から浴衣レンタル屋さんまでの道のりを手をつなぎながら、どんな浴衣があるかなぁ?と歩く。
その道のりは、古い町並みが残っているから、「なんかいい雰囲気だね」なんて言いながら、町並みを眺める。
こんな今を想像していたから、せっかくいい雰囲気の町並みが広がってきたのに、険悪なムードで歩いている現実が、あまりにも辛すぎた。
だから、僕は、怒ってしまった。
今思えば、後悔しかない。
彼女がどれだけこれを楽しみに思っていたか、どれだけ喜んでくれたか、このお返しに僕にどれだけうれしいサプライズをしてくれたか。
これを考えれば、自分の感情は押し殺して、彼女と仲直りし、彼女が喜ぶようにしてあげるべきだった。
これが最善の選択だった。
それなのに僕は、「自分のサプライズを喜んでいない彼女」に我慢できなくなって、感情を思い切りぶつけてしまった。
独りよがりの感情を。
あんな風に言われたら、彼女がどう感じるか、今ならわかる。
それなのに、性懲りもなく僕は、また彼女に怒ってしまった。
僕が怒りさえしなければ、浴衣を着れば彼女は元気になったかもしれない。
僕が怒りさえしなければ、出店で何か買えば、彼女は元気になったかもしれない。
僕が怒りさえしなければ、花火を見れば、彼女は元気になったかもしれない。
すべてを台無しにしたのは、僕だった。
自分がイヤになるから、思い出したくないけれど、この現実は直視すべきだと思うから、しっかり反省しながら、書き進めようと思う。
ーー
まず、険悪なムードの中、何とか浴衣レンタル屋さんについた。
そんなムードであっても彼女は「ねぇ、どれがいいと思う?」と聞いてくれた。
この時もっと彼女を受け入れてあげれば良かった。
たしかに一緒に選びはしたが、どうしても僕の中でモヤモヤが残ってしまっていた。
でも、浴衣を着た彼女があまりにも美しすぎて、出てきた彼女を一目見たら、そんな気持ちはすっかり消え失せていた。
こんなに浴衣が似合う女の子がこの世にいるのだろうか。
そうおもった。
でも、素直になれず謝れない僕に、彼女が謝ってきてくれた。
本当はモヤモヤした思いが残っていたのに。
彼女は気持ちを押し殺して、僕と楽しい時間を過ごすため、謝ってきてくれた。
ーー
少しばかり、とても楽しい時間が過ごせた。
彼女とお寺みたいなところに行って、お願い事をした。
彼女がどんなお願い事をしたのかは僕は知らない。
彼女とハートの絵馬を書いた。
別れるフラグとか言いながらも、嬉しかった。
出店でいろいろ食べた。かき氷、チーズドッグ、焼き鳥、イカ焼き、お好み焼き。
それに彼女が僕にチューハイを買ってくれた。
浴衣レンタルが嬉しかったのかな。彼女はチーズドッグも焼き鳥も、イカ焼きも買ってくれた。今思えば、どうしてこういう彼女の可愛さにもっと気づけなかったんだろうと思う。
ーー
でも、そこから、また険悪なムードになってきてしまった。
特に何かがあったわけではないと思っているが、きっと彼女の中で、ずっとモヤモヤが残っていたんだと思う。
彼女がそれを僕に伝えてきたとき、また僕は怒ってしまった。
もう無理だ。そう思ってしまった。
きっと短気なんだろう。
彼女のことが嫌いになったとかそんなはずないのに、
怒っている僕は、彼女のことを好きと思えなくなってしまっていた。
だから、僕は、「もう帰ろう」と言った。
彼女は「なんで」と悲しげに言ったのに、僕は強引に帰ろうとした。
ここで、気づくべきだった。彼女は、拗ねているだけで、心から怒っているわけではなかったんだと。
それなのに、僕は耐えられなくなって、挙句の果てに「もう別れよう」とまで言ってしまった。
それでも彼女は、「花火だけは見よ」と言ってくれた。
そこで、「怒ってる?」と不安げに聞いてきた彼女に、「怒ってないよ」と冷たく返し、無言の中、花火の音が鳴り響いた。
とても綺麗だった。きれいだねって彼女と話しながら見たかった。
「でも正直、彼女ちゃんの方が綺麗だよ」なんてふざけたセリフも言いたかった。
でも、何も言えず、無言のまま花火を見た。
彼女が耐え切れなくなって「まだ見たい?」と問いかけてきた。
そして、僕らは帰った。
足が痛く、早く歩けない彼女を置き去りにして僕は、浴衣レンタル屋さんに向かった。彼女も後をついてきていた。
途中で、「話したい」と半泣きで問いかけてきた彼女の話にもまともに応じず、僕は歩いた。
浴衣のレンタルも終わった。
花火大会も終わった。
駅に向かう途中、彼女が後ろにいないことに気づいた。
電話すると、泣きながら道がわからないと言ってきた。
そんな彼女にさえ、冷たく当たって、僕たちは無言で電車に乗って、家へと向かった。